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弁理士ブログ

パリ条約と優先権

2013/05/07

Wikipediaで「パリ条約」と入力すると、14の条約が挙げられています。外交の都パリですから、さぞかし重要な条約が目白押しかと思えば、私の知っているのは「工業所有権の保護に関するパリ条約」だけでした。私は、後に述べますように、職業柄、知的財産権(昔は「工業所有権」と言っていました。)に関する基本条約であるということで知っているのですが、そうしますと、普通の日本人にとって、「パリ条約」というのは、ありそうで無い、幻の条約ということになります。その点から言いますと、「KYOTOプロトコル」というのは大事にすべき条約です。

「工業所有権の保護に関するパリ条約」は、1883年にパリで締結された条約です。各国における特許権、商標権等の権利を、外国人に対しても平等に認めましょう(これを内国民待遇の原則と言います。)というのが狙いですが、その狙いを実現するために導入されたのが「優先権」という制度です。

例えば、日本人が非常にすばらしい発明をして、世界中で特許を取りたいと思っても、翻訳という壁が立ちはだかります。日本の特許庁にはすぐにでも出願できたとしても、ドイツの特許庁に出願するためにはそれをドイツ語に翻訳しなければなりません。ここでどうしても、翻訳のための時間が必要となります。その間に、ドイツで誰かが同じ発明をしてドイツ特許庁に出願をすれば、その人はドイツでは負けてしまいます。これでは、「内国民待遇の原則」が絵に描いた餅となってしまいます。

そこで、同じ発明について、ある国(第1国)で出願した後1年以内に他の国(第2国)で出願するときに、「優先権」という権利を主張できるようにしました。「優先権」を主張しますと、第2国においても、あたかも第1国の出願日に出願したように扱われるというものです。つまり、外国人には1年間の時間的猶予を認める、という制度なのです。

このように「優先権」というのは、元々は外国人のみに与えられる権利だったのですが、時間が速く進むようになった現代において、1年というのは非常に長い時間となります。その間に思索を深めたり試作を進めたりすることにより、第1国で出願した内容にプラスアルファを加えて第2国に出願する、ということが起こるようになります。そうしますと、逆に、そのような優先権を利用できない第1国の人々にとっては不利になってしまいます。

そこで、「優先権」という概念を広げ、内国人/外国人の区別無く、単に、1年間の利益を与えるという制度に変えることになりました。これが「国内優先権」という制度です。「国内優先権」という制度を使えば、最初に出願をした後、1年以内に、より充実した、広い権利範囲となるような発明にブラッシュアップしたものを出願することができます。

「優先権」というと、他の人よりも優先的に特許が与えられる権利と思われるかも知れませんが(そんな不公平をしていたら、特許制度はもちません!)、人との関係ではなく、自分自身のみに与えられる、最長1年の、時間の利益なのです。皆さんもこの「優先権」を積極的に利用し、より良い、より強い特許権を目指してください。

小林 良平